2012年9月2日日曜日

革新的な変化は,人知れずに進行する.

グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた
辻野晃一郎
新潮社
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確かにソニーのウォークマンの音質や耐久性は優れているかもしれない.しかし,それはもはや競争の本質ではないのだ.

「勝つために手段を選ばず」的な志の低い企業行為の数々. 時代感覚をなくして世の中のメガトレンドに疎く,プライドやビジョンや技術を軽視した保守的な言動. 幾多の業績を挙げた功労者や自らリスクを取る挑戦者たちを極端に粗末に扱い,しかもそれをなんとも思わない無神経な人々の横行. 新しい企業価値を生み出すことに賭ける腹の据わった度胸と忍耐力の欠如. 見苦しい嫉妬と足の引っ張り合いやモラルハザードが日常化した結果,内向きに消費される無駄なマイナスエネルギーの極大化.

グーグルの採用基準
・地頭の良さ. 知識などよりも,未知の課題に対して,答えを導き出す道筋を論理的に構築できるかどうかが問われる.
・これまでの職務実績や社会貢献の具体的な内容. きちんと結果を出す人かどうかが見極められる.
等々

ビジネスの常であるが,あまりにも強いポジションを確保し過ぎると,逆にそれが大きな足枷となって,次の勝負で大敗するという事例は枚挙にいとまがない. 例えば,真空管で強かったオランダのフィリップスがトランジスタに乗り遅れた事例,ソニーのウォークマンがiPodやiTunesにやられた例がある.
本質的に問題と感じたのは,テレビグループではテレビの定義があくまでも受像機ということであり,それ以上の発想がないように思えたことである. これからはネットワークの時代になり,ディジタル放送も始まる. だから,ただの受像機という装置ではなくなるはずだ.

「初めて日産を見たときは,とにかく問題だらけなので大きな改善の余地(Potential of Progress)を感じた」

従来のコンスーマビジネスにおける商品は,製造側も消費側も,いい意味でも完璧・完全を追求するマインドが強かった. 一方,パソコンなどのビジネスでは,製造側も消費側も,始めからバグを予期したマインドセットになっている. 当然,商品に欠陥があることは許されないし,品質は利益の源泉であると同時に品質で事業を潰すことさえある. これは難しい議論であるが,我々は常に商品の完成度,品質に万全を期さなければならない一方で,過度の完璧主義から脱却した割り切ったモノ作りについて,もっと学んでいく必要がある.

世の中はすべてが関係論の中に成立している. 自分の現在の職務や自分の職場が単独で存在しているわけではなく,家電やIT業界の中にソニーが存在し,そのソニーの中に事業所が存在し,その事業所の中に自分が所属する職場が存在している. 現在取り巻いている状況というのは,自分たちの日頃の業務の帰結なのである.

人間の習性として,将来への備えや起こり得るリスクに対する備えをしている段階では,なかなかその行為の意味というものが周囲の人々の理解を得られずに苦労するが,一旦リスクが顕在化すると,そこで初めて認識が深まったり,本気になったりするものである.

オフライン時代に,ハードを量産するという作業はリスクの高い行為であった. もし出荷後に製品に瑕疵が見つかればリコールにもなりかねず,そうなればその損失は計り知れない.そこでISO9000などに準拠した品質マネジメントシステムを構築し,出荷前の製品の完成度を万全にするためにコストと時間をかけることには誰も疑いの目を向けない.
オンラインの時代には,ネットワークとつながる商品であれば,仮に出荷後に瑕疵が見つかっても,オンラインで修復できるという可能性がある. ましてはハードウェアを含まないアプリなどであれば,あるレベルまで完成度が上がれば後はとにかく早く出荷した方が有利である. もたもたしていると同じアイデアを持った動きの早い人に先を越されるリスクが高まり,また早く出すほどユーザのフィードバックも早くもらえて製品の改善が進む. このため,出荷前の完成度を上げるために必要以上のコストや時間をかけず,それを出荷後の製品の進化を継続するための仕組みづくりに回す方が得である.

クラウド事業者は,データセンタで無数のCPUやHDDを扱っているが,これらを人間の細胞のように,むしろ壊れるのは当たり前として,早く壊れたパーツは新しいパーツと入れかえていくという新陳代謝を前提としたフォルトトレラントなアーキテクチャを構築している.

いずれ,銀行にお金を預けるのに誰も不必要な心配をしないのと同じように,自分や会社の機密データもデータ管理のプロ事業者に預けるのが常識となっていくであろう.

イノベーションとは,どんなにいい技術や製品を開発しても,それだけでは決して成立しない.その良さが多くのユーザに理解され,受け入れられてこそ,我々の生活を便利にしたり,社会に役立つ価値として意味を持つようになる.

日本人は行動する前に考え込んでしまうことが多い. インターネットの世界はスピードが最も重要で,やるリスクよりやらないリスクのほうが高い. やらないうちに時代はどんどん先に行ってしまい,躊躇しているうちにあっという間に取り残されていく.
「瑕疵がない,壊れない,壊れにくい」ことを前提にしたモノ作りの体質は,スピードが最重要な時代においては,必ずしも合理的とは言えなくなってきている.

走りながらユーザの力を利用して製品の完成度を上げていくというスタイルはオフラインの時代に作り上げた鉄壁であるが故に融通の効かない日本的なものつくり文化やシステムの立場から見ると非常識でありあり得ないスタイルである.

世の中の革命的な変化というものは実は派手に起きるというよりは見えないところで潜行しながら発生する. 革命や変革というのは,起こす人がいるから起こるのであって,世の中のごくごく一部の限られた人たちが動き出すと,さらにごく一部の人たちがその動きを察知して行動をはじめ,そこに小さな連鎖が発生し始める. このような革命や変革が起きることのサインはいろいろな形で出始めるのだが,本当に大勢に人たちが気付き始めるのはかなり後になってからとなる.

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